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Attache-moi, aime-moi

marieのひとりごと

鍵物語千夜一夜

鍵20140323


  《鍵》

鍵を拾った…
夕闇迫る横浜の外国人墓地で…。

古い形ながら
重厚で精巧に出来た感が有る…

その鍵は半ば土に埋もれ、数十年の歳月が想像出来る程錆び付いていた。

落とし物と言うよりは、故意に捨てた物?…

何故かそう直感した。

鍵を捨てるなんて、何ともロマンチックな人が居るものだ…

勝手な想像に浸りながら
手に取り、錆びた鍵を指で擦った…。

その錆びは思いの外、簡単に落ちて銀の地金が鈍い光りを放った。

私は…
宝物を拾った少年のように噴き上がる罪悪感に、辺りを見回し慌ててポケットにねじ込んだ。


やがて…

机の引き出しのいちばん奥に大切にしまい込んだ鍵を取り出し見入るようになった。

そっと取り出し磨き上げる。
捨てた人物を想像しながら水割りを飲むのが毎日の至福の時間になった…

鍵の形…
半ば土に埋まってた光景…
ずっしりと重く、鈍い光りが
私を捉えて離さない。


数カ月経って、

時々寄るバーのマスターが
他の客の噂話しをしてくれた…

週に何度か夕闇迫る外国人墓地の片隅にひっそりと佇むいい女がいるらしい…と。 


鍵の持ち主か……

瞬時に私の脳裏をかすめた!

翌日の夕方から鍵を拾った場所を遠目にして立つた…

何日も…

何日も…

何日も…

しかし徒労に終わった!

やっぱり…
そんな話は有るはずが無い。

自嘲しながら時計を見た。

帰ろうと目線を戻し先に女が立っていた…
しかし、探し物をしてる様子も無い。
噂通り遠目にも美人とわかる。
歳は30代半ばか…
背中から寂しげな様子が受け取れる。 
違うな…
そんな夢物語が有る筈も無い。
今日を最後に諦めよう。

そう意を決して声を掛けた…

『あのう…鍵をお探しですか?』
女は一瞬振り向いた。
端正な顔立ちで清楚で知的な表情だった。

女は遠くに視線を戻し
『いいえ…あれは捨てた鍵ですから…』と、私に一別をくれて歩き出した。

遠ざかる女の背中に…
『何の鍵だったのですか?』と投げかけるのが精一杯だった。

女は歩みを止めず
『…もう一人のわたしを閉じ込めてあるお部屋の鍵なの…』

私は…
小さくなる後ろ姿をしり目に一歩も動けなかった。





T.K